少し背伸びをして、何かを着飾って、だけど、そんなことは大切な人の前では必要がなくて、そのためには、まず自分と向き合わなければ前に踏み出せない。ドラマ『アラクオ』で描かれた“惑い”の正体はそこにあった。作品を通してひと夏のアラクオ体験をして、5人それぞれが迎えたエンディングに、自分と向き合うことは何歳になってもとても難しいということを改めて感じさせられた『アラクオ』最終話。
抱え込んだ惑いと向き合い、5人それぞれが前を向き始めていた中、いまだ自分自身と向き合えずにいた康祐(佐藤大樹)は、直己(松岡広大)の元へ向かう。早苗(美山加恋)の気持ちがわからないと話す康祐に、直己は淡々と語りかける。
「わかりあえないから努力するんじゃないの。好きだったらさ。ちゃんと気持ち伝えたの? 会って話せるときにちゃんと自分の気持ち伝えておかないと、後悔してからじゃ遅いよ」。 それは、直己が自分と向き合い続けてきた、自分自身に向けられた言葉だった。だからこそ、康祐の心にも響く。
元カレと8年過ごした家を引き払う決心をした早苗。引っ越しを手伝いにきていた明日美(工藤遥)は、不倫の恋の終焉を告げる。
「どうしようもない私が、どうしようもないなりに、今自分ができることを精いっぱいやったから」
その明日美の本心からの言葉に、ぬぐい切れない康祐への思いと重ねてしまう早苗。
康祐と早苗がばったりと再会するシーンはスプリット・スクリーン(画面分割手法)で印象的に描かれている。お互いの目線の先に、いるはずの人がいない、いないはずの人がいる。そんな二人の心象風景を捉えた偶発的で運命的なワンシーン。
「せっかくだから、早苗を家まで送って、そのまま歩いてうちまで帰る」 ノリでも強がりでもない、本心の言葉をそのまま伝える康祐。
缶ビールを片手に、夜の街を歩き続ける康祐と早苗は、子どもの頃のこと、好きな食べ物のこと…そんな他愛のない話を初めてする。ノリで豪華なホテルへ行くのでもなく、派手なサパークラブではじけるわけでもない。背伸びしたり着飾ったりすることなく、ただただ深夜の雑踏を歩きながら、相手のことを“探る”のではなく“理解”する会話が、お互いの距離を縮めていく。
そして、夜明けを迎えた頃、康祐は仲間たちにも伝えていなかった“惑い”を、早苗に打ち明ける。それは、自分自身と素直に向き合えた瞬間だった。言葉やカラダだけではなく、心を通わせ合う2人のラストは、エンドテロップとともに康祐と早苗の“声だけ”というエンディングを迎えた。
このラブシーンは実際に撮影されていたが、このエンディングシーンではそのときの声だけが採用された。その声には、夜をかけてお互いのことを語り明かし、素直に心を通わせた康祐と早苗がありありと現れている。そして、観る人それぞれの情景として想起させる観終わり感ある象徴的なエンディングでもあった。…実は、康祐と早苗のラストのラブシーンは最終話の劇中でほんのわずかだけ観ることができる。気になった方は最終話のオープニングシーンをもう一度観ていただければ。
明日美に寄り添う洋一(吉澤要人)、一真(曽田陵介)と美和(福室莉音)の穏やかな同棲の風景、そして、NONKIでぐったりしている店長・聡(藤森慎吾)ら、それぞれの今の姿も描かれた最終話。 5人それぞれが“アラクオの壁”を通して得たものは“自分自身の心根との出会い”だったのではないだろうか。
『around1/4(アラウンドクォーター)』最終話は、TVerにて見逃し配信中。原作は、世界累計4300万DLを突破した漫画アプリ「comico」で連載された作家・緒之の同名WEBTOON作品。
佐藤大樹と美山加恋が声だけで康祐と早苗のラストシーンを表現したエンディングは必見! 抱え込んだ惑いの正体を見つけるヒントもちりばめられたドラマ『around1/4』を無料配信中
<ニノマエヒビキ>